アスパラ栽培技術に関連する資料を調査している中で、オークションで手に入れた専門書を紹介します。
「蔬菜栽培技術5アスパラガス」(沢田英吉 誠文堂新光社)です。今から55年前の昭和37年に出版された古書ですが、驚きが詰まった本です。現在出回っている同類の本とは随分と違いがあります。
目次を書き出してみます。
第1章 来歴、現況および将来
Ⅰ来歴、Ⅱアメリカにおけるアスパラガスの現況と将来
Ⅲ我が国におけるアスパラガスの現況と将来
第2章 植物学的性状
Ⅰ名称、Ⅱ性状、Ⅲ花、Ⅳ果実、Ⅴ種子、Ⅵ発芽、Ⅶ地下茎
Ⅷ茎、葉および擬葉、Ⅸ根、Ⅹ雌雄株の性状比較
Ⅺ芽の数と春の若茎数および成茎数
Ⅻ前年の成茎数と翌春の若茎数
第3章 環境との関係
Ⅰ気候とアスパラガス、Ⅱアスパラガスの生長と温度との関係
Ⅲ土性
第4章 栽培
Ⅰ品種、Ⅱ育苗、Ⅲ本圃、Ⅳ苗の定植、Ⅴ肥料、Ⅵ収穫
Ⅶ採種、Ⅷアスパラガス畑の寿命とその更新、Ⅸ病虫害
第5章 化学と加工
Ⅰアスパラガスの化学、Ⅱアスパラガスの加工概説
追補 アスパラガスの同化能力
栽培技術を総体的に網羅しつつ、さらに現在でも話題となっているテーマが、すでに取り上げられていることに驚きをもちます。
例えば、
・「本圃」の項では、圃場選定の要件と土性改良について、
・「苗の定植」では、深植えと浅植えの利害について、
・「肥料」では、過剰施肥への警告と施肥の適正量の検討が、
・「収穫」では適正な収穫期間について、
・「畑の更新」では、アレロパシーがすでに取り上げられる
など今まさに課題になっている事柄が解説されています。
新たに発見できた技術や知見があったことも特筆しなければなりません。
・「苗の定植」で定植前に泥に浸す方法や、苗の進行方向をそろて
定植することの考慮や、
・アレロパシー解消対策として4年間の緑肥栽培でも改善できなか
った試験成果が紹介されていること、
などです。
今ここに例示したテーマは、栽培現場で直面する問題や、疑問などにつながるものです。実に現場の人の琴線に直接触れてくれて、寄り添うものです。「そうなんだよ、これを知りたかったのだ」というものです。
これが、今の時代の栽培技術書には見られないことだと感じます。研究が高度化する現代では「専門」へと進化しているのかもしれません。しかしながらそのことは「分化」への道でもあり、全体像が見えなくなっていることでもあることを痛感させられます。
全体を見渡すことの実体験をした思いがします。この体験を今後に反映していきたいと思います。