りがとうファームさん(https://aligato3.wordpress.com/)で3月10日に行われた研修会に参加してきました。「ありがとうファーム」さんは千歳市で無肥料・無農薬・自家採種にこだわり自然栽培農法を13年続けて野菜栽培している農園ですが、かねてからお付き合いのある筑波大学と東京農業大学のお二人の先生方による土壌と自然栽培についての勉強会を開催するはこびになったということでした。
 研修会の内容は驚くほど(失礼IMG_20190506_174302専門的なものでした。それは当然なことでした。筑波大学の田村先生は「日本ペドロジー学会」の会長ですし、ペドロジー土壌学の専門家でした。東京農大の中塚先生も農学博士論文のテーマが自然栽培に関するものでした。




 講義のテーマは田村先生が「土壌のスキャナ 2019-05-06_1肥沃性を考える」と題して、午前中2時間をかけて土壌学の基本的な事柄を解説していただきました。 









 午後の2時間は本日のメインテーマスキャナ 2019-05-06 (1)_1として中塚先生が「自然栽培のひみつ」と題して、先生の博士論文からその要点を分かりやすく解説していただきました。
 中塚先生の講義は、そのサブタイトルに見られるように、自然栽培圃場でも高い収量性を示している圃場を対象として、なぜ無肥料で野菜栽培ができているのか、という根源的な疑問をテーマとして土壌学という科学によって解明しようとする意欲的で尚且つ我々にも非常に関心の持てるものでありました。そして実際中塚先生の講義はこれまでにない切り口で自然栽培圃場の土壌を解明しており、説得力に富むものでした。
 中塚先生の研究成果については、博士論文「高収量自然栽培圃場の土壌微細形態学的特徴と土壌品質評価」(中塚博子 2016.1 http://jairo.nii.ac.jp/0025/00040762 )を参照ください。

 さて、研修会の全貌をここで紹介するのはその量が多すぎるので、私が特に注目したことを記したいと思います。
 それはペドロジー(pedology:土壌生成・分類学)という土壌学の立場についてです。土壌学において2つの学問的区分が存在することをこれまで知りませんでした。土壌を「物」として認識する立場と「歴史的自然体」として認識し、土壌を「土壌体」として捉える立場という違いがあるということです。
 「土壌体」は「土壌層位」として現れるものと理解できます。土壌層位すなわち土壌の堆積層は土壌を取り巻く自然の土壌生成活動の歴史的痕跡であるということだと思います。この層位の構造・機能を理解・解明することが「土壌体」を理解し認識することになるものだと思います。

 中塚先生は自然栽培で高い収量をあげていスキャナ 2019-05-06 (2)_1る圃場の土壌の構造的な違いを究明しています。すなわち右の写真で見るように層位ごとの土壌構造の薄片を作成して顕微鏡観察という手法をとっています。このことにより高収量をあげている自然栽培圃場の土壌は下層域にまで膨軟な構造体にあり、対象区との特徴的違いであることを明らかにしています。
 ここで議論している自然栽培とは「化学肥料および農薬、有機肥料や動物性堆肥(魚カス、骨粉、牛糞・豚糞・鶏糞堆肥なども含む)を一切使用することなく、土壌と作物そのものがもつ本来の力を発揮させることで作物を栽培する農法」と定義しています。自然栽培農法の中核は「土壌と作物そのものがもつ本来の力」を発揮させることにあると考えられます。この本来の力は自然の摂理であり、それは均衡系であると理解することができます。この均衡系は総体として理解することが求められます。ペドロジーは土壌体を均衡系としての総体として理解する視座となっているものと感じます。
 総体として認識・理解する術(すべ)をペドロジーは示してくれたと理解できたことが「ありがとうファーム研修会」での最大の収穫でした。